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Discussion: 「リノベーション住宅の魅力って何ですか?」

長年のビジネスパートナーであり、海外での住宅事情にも詳しい設計・デザイナー 塚越 彰(つかごし あきら)さんと、近年、国内で注目を集めるリノベーション住宅を考えます。背景には、若者を中心とする価値観の変化や日本の住宅事情があるようです。

「家にもアイデンティティを求める人が増えている」

アルマホーム建築工房 設計・デザイン 塚越 彰(つかごし あきら)さん(写真左)と、
Rstudio代表取締役社長 荻原 賢

― 最近、リノベーション住宅に魅力を感じる人が増えつつあるようです。長年、日本では“新築物件への憧れ”が根強くあったと思うのですが、ニーズが変化しているのでしょうか?

荻原:リノベーション物件への関心が高まっている理由の一つは、若者を中心に“自分の価値観に基づく家”が欲しいという人が増えているからだと思います。

私は長年、不動産・建築業界で働いていますが、注文住宅で家を建てたいお客様が不動産・建築会社に不満を抱かれるケースがままあります。具体的には、注文住宅でもセットアップ商品から選択することを求められる場合です。例えば間取りは自由ですが、外壁はこの中から選んでとなると、見た目は他と同じような家になってしまう、それは嫌だというお客様も多いのです。

塚越:例えていうと、プラモデル好きの方でも、既製品のパッケージを組み立てる方もいれば、設計図を見ながらプラ版を加工して自作する方もいらっしゃいます。注文住宅を請け負う会社も創り方の概念はいろいろで、建売住宅に近いパッケージ商品を用意する会社もあれば、本当にゼロからコツコツと顧客が希望する家づくりをする会社もあります。私が荻原さんと今までご一緒してきたプロジェクトはいずれも後者ですよね。

荻原:パッケージ商品のような、人に押し付けられる新築住宅には魅力を感じないという方は増えていますね。家に関しても、自由に自分を表現する世の中になってきたのかなと感じています。

塚越:家にアイデンティティ(identity)を求める—自己実現の一つとして独自性を求める人たちにとって、欲しい家が見つけにくい現状があります。満足できない新築物件に多額のローンを払い続けることに疑問を持ち、家を買わない選択をしたという話も耳にします。家だけでなく、今の日本の若者は自家用車を持たない、お酒を飲まない人も増えているそうですが、つまりは自分らしさというアイデンティティをどこに置くか、価値観が多様化しているということだと思います。

こうした中で、古い家を自分なりに改築して住みたいという人が増えている、特に鎌倉・逗子・葉山など湘南地区には、そういった価値観の人が多くいらっしゃるような気がしますね。

― 新築住宅は高いが、中古住宅ならば安いからではなく、自分の個性を打ち出した家に住みたい方が増えてリノベーション住宅への人気が高まったということですね。

荻原:とはいえ現状は、両方のニーズがあります。中古住宅を購入して手を加える方が、新築物件を購入するよりも安価だと思われている方も多いですよ。もちろん、家具や内装を変えるだけでも住まいの雰囲気は変わりますから、その程度であれば費用は抑えられます。けれども、本当の意味でのリノベーション、家の再生を行うと、新築よりも費用がかかることも少なくありません。

「生活環境を整え、資産価値を高めるリノベーション」

湘南地区は、自分なりの生き方をしやすい、そんな土地柄だと感じる

― そもそも論ですが、リフォームとリノベーションはどう違うんですか?

荻原:リフォームは老朽化した家屋を現状復帰する修繕、リノベーションは既存の家屋を大規模に工事して性能を高めることといった区分けをするケースが多いようです。しかし、ドイツやイタリアなど海外に在住されていた塚越さんに伺うと、リフォームという言葉は使わないそうですね?

塚越:リフォーム(reform)は社会制度を“改革”する、例えば政党団体の方向性をリフォームするなどと言いますけど、欧州では家や不動産に関してリフォームという言葉は使いません、リノベーションが一般的です。もともと日本と中古住宅に対する意識が異なり、住む人がリノベーションを繰り返すことで中古住宅でも不動産の評価額が上がっていくケースが多い。日本の場合は、新築物件も減価償却が終わる20年後には資産価値がゼロと、全く逆です。

海外のリノベーションは、家の中だけでなく外構(建物の外の構造物全体)も含めて行います。そういう家々が集まることで、街並みなど住環境そのものが整備されて、結果的に土地・家の評価額があがっていくという仕組みです。

荻原:本来のリノベーションは、屋根、外壁、窓枠、ガラス、床、門、車庫、塀、全てですからね。

塚越:どうしても費用面では苦労されるお客様が多いわけですが、一方で、それでもリノベーションをしようというお客様が「家」に求めるレベルは非常に高いですね。

「欧米では住環境全体を整備するリノベーションによって中古住宅は資産価値があがる」

荻原:一方で、私は日本でリノベーションという言葉が受け入れられる理由の一つに、日本の土地の狭さがあると思います。やはり未だに日本では“土地神話”は生き続けている、日当たりの良さ、使いやすい間取り、住環境として庭も欲しいと考えると、やはり出来るだけ大きな土地を手に入れたいとお考えの方は多いです。

5,000万円の新築物件であればこのぐらいの土地の広さ、しかし、中古物件であれば同じ金額で極端なケースでは倍近くの土地面積を手に入れることができる。中古物件で広い土地を手に入れて、物件に手を加えればより良く暮らすことが出来ると思われるのは自然なことです。

結局、同価格帯であれば、中古物件の方が新築よりも若干広い、新築物件は中古物件より狭いけれども建物は綺麗でリノベーション費用がかからない。どちらも一長一短があるわけです。

塚越:実際、先ほど言ったような外構の整備などを検討しているうちに、リノベーションするぐらいならば、新築で建てちゃえとなるケースが、お客様にも業者側にも(?)ありますね。

「生活環境を整え、資産価値を高めるリノベーション」

「欧米では住環境全体を整備するリノベーションによって中古住宅は資産価値があがる」

― クリエイターとしては、真っさらな新築物件の方が遣り甲斐があるということは?

塚越:新築も、中古物件のリノベーションも遣り甲斐は全く変わりませんよ。私は欧州で過ごした経験から古いものの魅力を常々感じていますし、建築設計のポリシーも“温故知新”です。ただ、“古さ”を付加価値としながら家を再生するリノベーションは新築よりも難しいのは確かです。骨組みなど基本構造を確認し、新たに要素を加える、形を変更しないといけないこともあります。あれもこれも直すとそれこそ新築よりも費用が嵩みますし、一方で古い建物ならではの“味”も活かしたい、どこを変えるか変えないか、その見極めが重要ですね。

― R studioは将来的にはリノベーション事業に本格参入し、ブランド地位を確立することをめざしています。荻原社長自身は中古住宅の魅力をどのように感じられますか?

荻原:中古物件を再生する一番の魅力は、お客様一人ひとりが“身の丈に合った”住まいづくりをしやすい事だと思います。新築物件の場合は、全部新たに建てるわけですから、最初から一定のトータルコストがかかります。しかし、これだけの費用しかかけられないという時に、中古物件の場合、“この部屋だけ”、“この空間だけ”100%自分好みにするという選択が可能です。

私が良くお客様に申し上げるのですが、「家や土地を買うことばかり考えすぎてはいけませんよ」と。住まいを変える喜びというのは、単に建物がキレイになるだけではない、この街に引っ越してきて理想的な子育てができるようになった、休日の楽しみが増えて全く違う毎日になった、トータルなものなんですよと。不動産の購入とは住む街を買う、生活環境を含めてお金を出していただくんですよとご説明します。

建物に妥協するよりも、むしろ住環境に妥協することの方が難しいのではないでしょうか。そういう意味では、私自身も都内から移住した湘南地区は、東京圏内に通勤・通学しながら海も近く、サーフィンや釣りも楽しめる、住環境として圧倒的な優位性を持つ地域だと思います。

「限られた空間を自分好み100%にする、それもリノベーションの魅力」

塚越:お客様の身の丈にあった住まいづくりという考え方は、全くそのとおりだと思います。ご予算がなければ、部位的にデザインを見せる方法もありますし、お客様にとって何が住まいに大切なのか、お金をかけるところ、かけないところを決めて、一番重視する要素をリノベーションすればよい。無理に全体の生活水準を上げる必要はないわけですからね。

荻原:私たちは、そうした“お客様が最も重視している点は何なのか?”、お客様との会話の中から優先順位を感じ取って、自分たちの経験値からアドバイスさせていただく、お客様が自分の理想に近づくための道先案内人みたいな仕事じゃないのかなと思っています。

塚越:そうですね。建築デザイナーも、さまざまなタイプの人がいて、単に優れた建築デザインを追求する人もいます。一方で、実際に住む人の心に寄り添いながら建築デザインにおける優先順位を決めていく、お客様の選択と決断までの道筋をトータルマネジメントさせていただくのが建築デザイナーと考える人もいます。私自身は常に後者でありたいと思っています。

荻原:押し付けるのではなく、人に寄り添う、業界全体が考えていかなければならないと思います。塚越さんのそうした考え方が一緒に仕事をしていて信頼できるし“感覚的に合う”ところです。

私自身もそうですが、人間は一人で考えて煮詰まる時があります。しかし、自分ありきの人と一緒にいても考えは広がらない、塚越さんのような人と連携することでアイデアや実際の事業が広がっていきます。お客様も同じだと思います。不動産・家探しは、一種の“生き方探し”です。不安もたくさんある中で、寄り添ってくれる人がいれば、選択肢も広がり、安心して自分の考えを整理しながら物件を選ぶことができると思います。不動産業界というのは難しいこともたくさんあるのですが、R studioもそうしたお客様に寄り添うパートナーでありたいと改めて感じます。

「何を変えるか、変えないか。リノベーションではその見極めが重要ですね」(塚越さん)

― 塚越さんから、これからのR studioに期待することは?

塚越:利益優先型になってほしくないということですね。R studioのRにはリフレクション(反響)という意味もあると伺いましたが?

荻原:お客さまやビジネスパートナー、さらに今回の対談も含めてさまざまな外部の方とコミュニケーションをとりながら今の日本の現状を知り、未来に向けて自分たちが良いと思う取り組みを投げかけていく、反響させていくことができたらという思いを込めました。

塚越:R studioには常に良い波紋と循環を社会に広げて欲しいです。

日本を振り返ると、明治維新以降、日本では官僚制度によって極端な合理化が一律的に進められ、それによって、さまざまな技術が失われてきたと言えるのではないでしょうか。宮大工さんなどは日本古来の建築技術は江戸時代で終わっているとおっしゃいますが、神社仏閣の建築には既に明治時代には海外から伝わった釘やビスなどが使われているそうです。私はドイツやイタリアに長くおりましたが、欧州ではマイスター制度といって国が職人技術を守り、例えば今でも何十年も前に開発されたカメラのレンズを買い替えることができます。一方で、日本はご存知のように家づくりの工業化が進むなか、大工さんが“手刻み”技術など、付加価値技術を発揮することが少なくなり、結果として大工=3Kと言われ、30代以下の若手大工さんが極端に減っています。

選択肢を増やすという意味でも工業化や合理化は決して悪いことではありません。しかし、全てが一律にというのはどこかおかしい。長期優良住宅、低炭素認定住宅など、国は近年もさまざまな基準を打ち出していますが、結果として“家の値段”はさらに高くなる傾向にあります。国が環境政策、経済活性化を推進することは当然ですが、その結果、個人ががんじがらめにされていくのは変だと思います。私自身は家づくりにおいても、そういった動きと逆行していきたい、もっと人間本来が持っている原始的な思いに忠実な家づくり、心地よさ、楽しさ、美しさを追求していきたい。また、多くの日本人の方にも確実に、合理化一辺倒ではないモノを大切にするDNAが残っていると思います。

「何を変えるか、変えないか。リノベーションではその見極めが重要ですね」(塚越さん)

荻原:実は、今回のテーマであるリノベーション住宅についても、当初はバブル崩壊後の政府主導での経済活性化の一手段として中古住宅を買いやすくするという流れがあった、顧客主導ではなく業界が市場をつくってきた部分もあったと思います。これまでも様々なブームがあって消えていきました。しかし、先ほどからお話があったように、お客様自身の価値観を身の丈にあった規模の家で表現していきたいというニーズは着実に増えています。

いつも頭にあるのは、お客様に「自分だけの“美しいもの”、“おしゃれなもの”に囲まれて生活してほしい」ということです。“美しいもの”や“おしゃれなもの”というのは必ずしも高価なものや形があるものである必要はない、また、他人がどう思うかでもありません。まさに塚越さんがおっしゃったように、自分の基準で、心から心地よいという暮らしを創る、そのお手伝いをR studioはしていきたいし、そのためには、R studio自身もブームに踊らされることなく、しっかりと自分たちの味やコンセプトをもって仕事をしていかないといけないと改めて思っています。(2015年7月)

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