鎌倉さんぽ 「文学碑めぐり 田辺松坡詩碑」
鎌倉は文学と深いつながりがある地域。
市内には、いたるところ文学碑が建てられているのをご存知でしょうか。あまり馴染みのない名前の方のものもあるかもしれませんが、ゆかりを知るときっと興味が沸くと思います。
この「文学碑めぐり」では、文学碑の紹介とともにゆかりや周辺の情報などもお届け。
お休みの日などの鎌倉散策・文学散歩を楽しんでいただければと思います。
今回お届けするのは、鎌倉市大町の妙法寺境内にある田辺松坡の歌碑です。
田辺松坡は本名を田辺新之助といい、1862年に東京・深川で産まれました。
東京開成中学校の校長を務めたほか、逗子開成中学校・高等学校の前身の第二開成学校、鎌倉女学院中学校・高等学校の前身の鎌倉女学校の創設者としても知られる、優れた教育者です。
明治の末に鎌倉に居を移し、その生涯を終えるまで日本を代表する漢詩人として詩壇で活躍、鎌倉の文化的発展にも大きく寄与しました。
田辺松坡とは漢詩人としての号です。
亡くなったのは1944年。81歳でした。
そのお墓は鎌倉市扇ガ谷にある寿福寺にあり、今も鎌倉の町を見守り続けています。
その田辺松坡がつくった漢詩碑があるのは、祖師堂に向かって右側、「一幡之君袖塚」の隣。
時と共に風化してしまい、なかなか文字を読み取るのは難しいかもしれませんが、こう刻まれています。
『海棠花下吟』
嫩葉穠葩緑擁紅
祇園雨霽洽光風
山僧説法花陰午
髣現閻浮七寶宮
松坡居士
訳するとこんな感じでしょうか。
「新緑がとても美しく、その木を囲むように赤い花々が咲いている。
祇園山に降った雨もあがり、空はすっきりと晴れて、心地よい風が吹いている。
午後になり、僧が海棠の木の下で説法をしている。
ほのかに見える、現世の七宝に飾られた仏堂の美しさよ」
ちなみにこの漢詩にでてくる海棠とは、春に薄紅色の花を咲かせるバラ科リンゴ属の耐寒性落葉高木。
妙本寺の祖師堂前にも植えられており、海蔵寺や光則寺とともに鎌倉三大海棠に数えられています。
その美しく咲き誇る姿を見ようと、毎年多くの観光客が訪れるほど人気です。
この漢詩の情景を味わうには少し早いかもしれませんが、この海棠の花が咲く頃に訪れてみるのもいいかもしれませんね。